
手当化と月給化のススメ
厚労省の毎月勤労統計によると、2023年の夏・冬でボーナスを支給する企業はそれぞれ65.9%・69.0%。
逆に3割超の企業で賞与なしの実態がある。小規模企業(従業員10~100人)では、賞与が定期的にない
企業が約34%に上り、大企業と比較してもやや高めの傾向。
しかし、帝国データバンクの調査では、2024年夏の賞与支給企業は85%にまで回復し、
賞与なしは10.3%と減少傾向に。企業規模による差は引き続き見られるものの、
景気回復の影響か支給割合は増加傾向にあります。
Mynaviによる調査では、日本企業全体の約2割がボーナスを支給しないと報告されており、
その理由には「業績悪化」や「年俸制の導入」等がある。
「社員にもっと還元したい」「頑張りに応えたい」
そう思っても、実際には賞与や昇給の“原資”が足りず、悩んでいる経営者の方も
多いのではないでしょうか。でも、そもそも“原資”は自然に生まれるものではありません。
戦略的に設計し、つくり出すものです。
日本では、伝統的に「年2回の賞与(夏・冬)」が当たり前という文化が根強くあります。
月給とは別に、賞与で年収のうち3〜5ヶ月分を補う設計となっている企業が多く、
給与は“12ヶ月+α”というより“14ヶ月分の収入”と捉える感覚が広まっています。
賞与を月給に割り振ることで、採用時の給与水準を引き上げる「見せ方」の改善を図る企業も増加中。
賞与や昇給は、多くの企業において「社員の当然の権利」のように捉えられがちです。
そんな中、2025年1月、日本経済新聞など報道によれば、ソニーグループは
「冬季賞与(冬のボーナス)」を廃止し、その分を月給と夏の賞与に再配分する制度へ転換。
背景は、半導体技術者などの専門人材流出防止のために「安定した月給アップで勝負」。
給与保証の“バラつき”を減らし、市況変動の影響を緩和する目的。ソニーの動きを追うように、
バンダイや他のグローバル企業でも賞与廃止・給与化の流れが出てきています。
今後これを真似る会社はもう少し増えるのかもしれません。
賞与・昇給の原資とは何か?
──「粗利(付加価値)」に基づく設計
賞与や昇給は、会社の付加価値(粗利)をどう分配するかという意思決定の結果にすぎません。
粗利(=売上−変動費)↓そこから販管費(人件費、広告費、家賃など)を引いて↓営業利益が残る。
この粗利の中から、まずは固定的な給与(=生活給)を確保し、利益が出た分から
変動的な分配(賞与)を考えるというのが本来の順序です。
■ 「人件費率」と「付加価値生産性」の視点
賞与や昇給の財源設計において重要な視点が、次の2点です。
人件費率(人件費 ÷ 粗利)
一人当たり付加価値(粗利 ÷ 従業員数)
賞与を拡充するには、「人件費率が健全であること」かつ「一人当たりの粗利が高いこと」
が前提になります。
企業体力を超えて賞与を出すことは、内部留保を削り、
将来の投資力を損なう行為にもなりかねません。
■ 昇給は「毎年のコスト増」──固定費化のリスク
昇給は一度行うと恒常的なコスト増=固定費の増加になります。
売上が横ばい、あるいは減少傾向にある中で安易に昇給を繰り返すと、
「固定費構造が膨らむ → 利益が圧迫される → 投資余力がなくなる」
という悪循環に陥ります。
よって、昇給の判断には明確な基準が必要です。
■ 賞与は「利益連動」であるべき──変動報酬設計の基本
賞与は、本来「利益分配の一部」であり、業績連動型の変動報酬として設計すべきです。
たとえば:
経常利益の〇%を賞与原資とする
部門別の利益貢献に応じて部門ごとに配分
さらに個人評価や行動評価を反映し、個別配分を決定
このような構造を持つことで、「利益が出たら分配する」「貢献した人が多く受け取る」という
正当性ある報酬体系が可能になります。
最後に:
賞与は“配慮”ではなく“設計”である
賞与は「頑張ってくれたから渡す」という情緒的な配慮ではなく、明確な業績・財務ロジックに基づく報酬設計の一部です。
●賞与も昇給も、すべては粗利の中からしか生まれない。
●粗利を増やすには、生産性・単価・効率を高めるしかない。
●それができた時、はじめて賞与や昇給を議論できる土壌が生まれる。
このような原則に基づいて、賞与を再定義し、健全な経営設計と従業員の納得を両立していくことが求められます。今後は“賞与あり”が当たり前だった時代から、“自分に合った報酬スタイル”を選ぶ時代へ変化を遂げていくかもしれません。
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